唐辛子は私たちの味覚と歴史に深く根ざしている興味深い香辛料です。
その独特な辛さは、メキシコの古代から始まり、今や世界中で激辛料理の象徴となっています。
このブログでは、唐辛子の概要から辛味成分のカプサイシンまでを巡り、その生態学的な謎にも迫ります。
また、唐辛子の名前の由来や異なる呼び名、そして料理や医療への幅広い利用法にも焦点を当て、香辛料の魅力に迫ります。
さあ、唐辛子の多彩な世界へ一緒に旅立ちましょう。
【要約】
- 唐辛子:メキシコ発祥、辛味成分カプサイシン、激辛料理の象徴。
- 生態学的な興味:鳥との関係、種子の散布戦略、哺乳動物の好み。
- 利用法:料理、健康、漬物に広がり、辛さの文化的・気候的影響。
目次
唐辛子の概要
唐辛子は、ナス科トウガラシ属の果実やそれから得られる辛味の香辛料です。
トウガラシにはピーマンやシシトウ、パプリカなど甘味種もありますが、ここでは辛味のある品種に焦点を当てます。
中南米が起源で、トウガラシ属の歴史はメキシコで紀元前6000年まで遡りますが、15世紀になって世界中に広まりました。
南米では野生種も香辛料として使われています。
唐辛子の辛味はカプサイシン類であり、強烈な刺激を与える性質があります。
この辛さは個人の好みに左右され、過剰な摂取は胃腸に問題を引き起こす可能性があります。
皮膚に触れると激しい痛みを引き起こすことがあるため、取り扱いには注意が必要です。
唐辛子の辛さは「火を噴くような」と形容され、これが激辛料理のジャンルを生み出しました。
一部では唐辛子から抽出したカプサイシンの結晶も販売されています。
唐辛子に含まれる辛み成分『カプサイシン』
カプサイシン受容体TRPV1は、痛みと関連する受容体に分類されています。
唐辛子の辛味が我々の口内で「痛覚」を引き起こすのは、この受容体が関与しているからです。
面白いことに、鳥類にはカプサイシンを感知するためのレセプターが存在せず、そのため彼らは唐辛子の辛さを感じないと考えられています。
この現象は、種子の散布戦略として進化した可能性があります。
唐辛子の辛味が鳥に影響を与えず、同時にその種子が鳥によって散布されることが、唐辛子の生態学的な戦略の一環として機能しているとされています。
一方で、野生の哺乳類は通常、カプサイシンの辛味を好まない傾向があります。
ただし、面白い実験結果があります。
マウスに少量ずつカプサイシン入りの餌を与えると、これらの哺乳動物は逆にカプサイシンの入った餌を好むことが観察されています。
これは、生態学的な文脈での唐辛子の役割や影響を理解する上で、興味深い洞察を提供しています。
唐辛子が生物の相互作用において果たす役割は、さまざまな生態学的な文脈で広がっており、その解明はさらなる研究の余地があるでしょう。
唐辛子の名前の由来
「唐辛子」の漢字は、「唐から伝わった辛子」の意味を持ちますが、歴史的にはこの「唐」は漠然と「外国」を指す用語とされます。
同様に、南蛮辛子(なんばんがらし)と略した「南蛮」とも呼ばれています。
「鷹の爪」は唐辛子全般を指す言葉ではなく、ある栽培品種の名前です。
九州の一部や長野県北部地域では、唐辛子を「胡椒」と呼ぶことがあり、これには「柚子胡椒」の「胡椒」も含まれます。
「外来の」を意味する南蛮胡椒や高麗胡椒とも呼ばれ、沖縄県では方言で「コーレーグス」と呼ばれます。
これは、大陸との交易が盛んだった地域が、「トウガラシ」の呼び名を避けたためとも言われています。
他の地域では「胡椒」と呼ばれるものを、「洋胡椒」と区別するためにも使われます。
英語では、産品としては「レッド・ペッパー (red pepper)」または「チリ・ペッパー (chili pepper)」、植物名としては「カプシカム・ペッパー (Capsicum peppers)」と呼ばれています。
これは、胡椒と同様に辛い香辛料であるため、胡椒と呼ばれている理由です。
英語での「チリ」(chili, chile, chilli, chille)は、メキシコのナワトル語での唐辛子の呼称「chilli」に由来しています。
一方で南米西側の地名・国名「チリ (Chile)」とは異なる語源です。
唐辛子の利用用途
唐辛子は、その辛みを料理に取り入れるだけでなく、健胃薬や凍瘡・凍傷の治療、育毛など薬としても幅広く活用されています。
果実は緑のままでも食べられ、一般的には青唐辛子と呼ばれる未熟なものと、熟した赤いものとして赤唐辛子と呼ばれます。
トウガラシの品種には果実を鑑賞するためのものも存在します。
唐辛子は生のまま食べるほか、乾燥して使用することもあります。
燻煙してから使用する場合もあり、その風味は独特で魅力的です。
唐辛子を醤油や酢、食用油、泡盛などに漬け込むことで、これらの調味料に辛味を加え、通常とは異なる風味を楽しむことができます。
漬かった唐辛子は取り出して刻み、サラダなどに利用することも一興です。
日本では、1960年代には年間7000トン程度が生産され、輸出も盛んでしたが、2018年には逆に輸入品が主流となり、国産はその1%程度となりました。
主要な生産地は栃木県大田原市で、「栃木三鷹(さんたか)」がほとんどの年で首位を占めています。
料理において唐辛子が多用されるようになったのは、相対的に最近のことであり、1980年代以降にエスニック料理の普及とともに「激辛ブーム」が巻き起こりました。
それ以前は、薬味や香り付けに一味唐辛子や日本特有の七味唐辛子がわずかしか使用されず、市販のカレーも辛口の商品は希少でした。
現在でも年配の層には唐辛子の辛味が苦手な人が多いとされています。
唐辛子が日常的に使われる地域では、子供の頃から辛い味に慣れ、舌や胃腸を刺激に対して強くしています。
しかし、唐辛子を日常的に摂取しない場合は、辛味を味覚としてではなく「痛み」として捉え、敬遠されることがあります。
これは社会文化的な条件によるものと考えられます。
唐辛子を好む地域は、主に暑い季節が長く、食欲を増進させ発汗を促し、暑さに負けないためだとされます。
ただし、暑い地域であっても唐辛子を好まない地域も存在し、唐辛子の嗜好は気候的な要因だけでなく文化的な要因にも強く影響されていることがうかがえます。
世界各国の唐辛子の歴史
唐辛子の起源はメキシコで、最古の栽培は紀元前6500 - 5000年ごろにさかのぼります。
アメリカ大陸では古くから栽培され、ペルーの遺跡からは1世紀ごろの唐辛子模様の織物が見つかっています。
クリストファー・コロンブスが1493年に最初の唐辛子をスペインに持ち帰り、以降ヨーロッパ全域に広まりました。
初めて本草書に記載されたのは1542年で、ヨーロッパでは17世紀以降に料理の香辛料として一般的になりました。
16世紀後半にはバルカン半島やハンガリーにもオスマン帝国を経由して伝わり、ヨーロッパでの広まりが進みました。
・中国
現代の中華料理はトウガラシを積極的に取り入れ、特に長江中流域の四川料理、湖南料理、湖北料理、貴州料理、陝南料理(陝西省南部)はその辛さで知られています。
しかし、トウガラシがどのように伝来したかについては不確かな点が多く、以下の3つのルートが推測されています。
1:陸路
中央アジア経由でシルクロードをたどり、中国西部の新疆を経て西安に到達した。
2:海路
原産地メキシコから太平洋を横断し、フィリピン経由で中国大陸に到達した。
3:海路
ポルトガル人が植民地ゴアを拠点にし、東南アジアを経由して新たな植民地マカオに到達し、中国南部の広東省や広西チワン族自治区に上陸した。
李時珍の『本草綱目』(1578年完成)にはトウガラシは見当たらず、文献上では明末の高濂(1620年没)の『草花譜』および『遵生八牋』(1591年刊)、および清初の陳淏子の『花鏡』(1688年刊)に「番椒」として見られ、初期には主に観賞用とされていました。
四川料理での使用は乾隆年間(18世紀)の李化楠・李調元の『醒園録』が最も古く、まだトウガラシは使われておらず、トウガラシの栽培が四川で始まったのは嘉慶年間になってからとされています。
そのため、長江中流域の料理が辛くなったのは19世紀初めと考えられています。
・日本
日本への唐辛子の伝来には複数の説があります。
初期には食用としてではなく、観賞用や毒薬、足袋のつま先に霜焼け防止として使用されていました。
1:1542年にはポルトガル人宣教師が豊後国の戦国大名大友義鎮(のちの宗麟)に初めて献上し、これが南蛮胡椒と呼ばれた原因と考えられています。
1552年には別のポルトガル人宣教師が大友義鎮に唐辛子の種を献上。
1577年にはポルトガル人宣教師が手紙で、「酢漬けトウガラシ」が日本で珍重されていることを記述し、当時は「南蛮胡椒」や「蕃椒」と呼ばれていました。
2:奈良の興福寺の塔頭、多聞院の住職が記した『多聞院日記』には、文禄2年(1593年)に唐辛子が言及されています。
3:江戸時代後期の農政学者・佐藤信淵は、『草木六部耕種法』(1829年)で「蕃椒は最初は南亜墨利加(南アメリカ)州の東海浜なる伯亜兒国(ブラシリア)より生じたるものにして、天文十一年(1542年)にポルトガル人の持ち込み」と記述していますが、これは「天文十一年」が「天文二十一年」(1552年)の誤記であることが指摘されています。
4:貝原益軒の『菜譜』や『大和本草』には、「昔は日本に無く、秀吉公の朝鮮伐の時、彼の国より種子を取り来る故に俗に高麗胡椒と云う」とあり、これは他の説とは異なり、朝鮮から渡来したとされていますが、これには西日本に広まる以前に豊臣秀吉の朝鮮出兵に従事した兵士により逆輸入された可能性があるとされています。
・朝鮮
1592年の朝鮮出兵時に、日本からの兵士(加藤清正)が、武器としての活用や凍傷予防のための血流増進作用があるとされる薬を持ち込みました。
『芝峯類説』(1614年)では、「南蛮椒には大毒があり、初めて倭国からもたらされた。
俗には倭芥子(倭辛子)と呼ばれ、最近ではこれを栽培しているのを見かける」と述べられており、この説が一般的になっています。
イ・ソンウ(李盛雨)が『高麗以前の韓国食生活史研究』(1978年)で、この薬が日本から伝来したとの見解を示して以来、これが通説とされています。
唐辛子を活かした調味料の事例
○味唐辛子(例:一味唐辛子、七味唐辛子など) - 唐辛子と他の薬味や香辛料をブレンドした調味料。
○の数字は、混合された薬味や香辛料の数を示しており、主に様々な料理に振りかけて使用されます。
例えば、唐辛子と山椒・麻の実・黒ゴマなど7種を組み合わせた七味唐辛子、唐辛子・柚子・山椒の3種を混ぜた三味唐辛子、七味唐辛子にエゴマ・紫蘇の葉などを加えて10種類に仕上げた十味唐辛子などがあります。
唐辛子だけで構成されるものは一味唐辛子と呼ばれます。
他にも、唐辛子味噌(寒造里・かんずり、南蛮味噌)、柚子胡椒、コーレーグス、キムチ、コチュジャン、豆板醤、辣椒醤、ラー油、ペッパーソース(商品名としてタバスコが知られていますが、NHKの番組内では「ペッパーソース」として扱います)、チリパウダー、チリソース、ホットソース、ハリッサ(アリサ、アリッサとも)、サルサの一部、デスソースなどがあります。
また、唐辛子を漬けた飲料としてはセラノペッパー種を使用したチリビールや、薬用酒として利用されるペルツォフカなどの唐辛子ウォッカが唐辛子飲料として挙げられます。
唐辛子の国際的な利用事例
1:南北アメリカ
南北アメリカにおいて、編集や料理の中でトウガラシが重要な役割を果たしています。
メキシコはトウガラシの原産地であり、「ハラペーニョ」や「ハバネロ」などの有名な品種が栽培されています。
ボリビアでは、ロコトやアヒ・アマリージョを使用したサルサが一般的で、ペルーではアヒ・アマリージョが料理の味付けや色付けに広く利用されています。
コロンビアでは「アヒー」と呼ばれる薬味が、唐辛子、ネギ、トマト、塩、レモン汁を混ぜて作る料理の味付けに使われます。
アメリカ合衆国では、メキシコ料理の影響を受けた地域や、西アフリカ料理の影響を受けたルイジアナ州のクレオール料理やケイジャン料理でもトウガラシが広く利用され、タバスコソースやチリパウダーに表れています。
ハイチの料理では、ピーマン・ブークと他の野菜を酢漬けにしたものがよく使われます。
2:ヨーロッパ
南イタリア料理に一般的に使用されるのは、砕いた赤唐辛子。
代表的なスパゲッティ料理「アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ」では、ペペロンチーノが唐辛子を指し、香草オイル「ペペロンチーニ」もあります。
ギリシャでは家庭料理に赤唐辛子がよく使われ、ハンガリーでは乾燥させたパプリカを煮込み料理に。
イベリア半島では粉唐辛子がソーセージや煮込み料理に、バスク地方ではエスプレットと呼ばれる唐辛子が有名です。
3:アジア
日本では様々な唐辛子が利用されており、かつては50種以上の品種が生産され、料理や漬物の薬味として幅広く使用されました。
現在は輸入が増え、七味唐辛子や一味唐辛子が蕎麦屋のテーブルに並び、沖縄そばには泡盛に漬けたコーレーグスが欠かせません。
朝鮮半島ではキムチやチゲなどに広く唐辛子が使われ、韓国の特有な大きな唐辛子はキムチに使用され、コチュジャンにも利用されます。
中国では四川料理が唐辛子と花椒を、湖南料理が唐辛子と酢を多用し、貴州料理や雲南料理が特に辛さを強調。
広東料理は野山椒を好む一方、杭州ではししとうに似た「杭椒」を炒め物に使用します。
タイ料理はトムヤムクンやグリーンカレーなど辛い料理が特徴的で、以前はプリッタイ(胡椒)が使われていました。
ブータンでは唐辛子を主要な野菜とし、エマダツィなど辛い料理が広く食べられています。
インドやバングラデシュでは地域によって唐辛子を多く使う場合と他の香辛料を重視する場合があり、肉料理に唐辛子が頻繁に利用されます。
スリランカ料理も唐辛子を使って辛みを加え、トルコやアルメニアではパプリカに似た粉唐辛子が煮込み料理に使用されます。
4:アフリカ
マグリブ地域、特にチュニジアでは、唐辛子、コリアンダー実、クミンなどの香辛料を組み合わせて砕いたハリッサがクスクスなどの料理の調味料として活用され、オリーブオイルと混ぜて薄切りパンに添えた前菜としても楽しまれます。
エチオピアとエリトリアでは、唐辛子を主原料としたベルベレと呼ばれる調味料がワットなどの料理の味付けに使用されています。
唐辛子はどんな人におすすめ?
唐辛子は辛味好きな料理愛好者や辛さの生態学的な興味を持つ人におすすめです。
その辛さは個人の好みに応じて変わり、その歴史や生態学的な関連性は興味深いものがあります。
また、料理において激辛料理を楽しむ人や、唐辛子の名前の由来や異なる呼び名に興味を持つ人にも魅力的です。
唐辛子は単なる香辛料を超えて、食文化や生態系との関わりにおいても面白い知識を提供しています。
【まとめ】
- 唐辛子:メキシコ発祥、辛味成分カプサイシン、激辛料理の象徴。
- 生態学的な興味:鳥との関係、種子の散布戦略、哺乳動物の好み。
- 利用法:料理、健康、漬物に広がり、辛さの文化的・気候的影響。
唐辛子の旅が幕を閉じます。
歴史と辛味の奥深さ、生態学的な興味、利用法の多様性が明らかになりました。
これは単なる香辛料ではなく、文化や健康にも深く結びついています。
唐辛子は料理のみならず、生態系との関わりや異なる文化における利用法も知ることができ、その多面性に驚嘆します。
唐辛子の辛味は舌だけでなく、歴史や地域にも語り継がれています。
これからも様々な場面で唐辛子の存在感を感じ、その辛さと多彩な魅力に触れ続けましょう。
最後まで記事を見て頂きありがとうございます。